いるのを見れば、たとえ小農でも新技術の採用を試みるものである。(9)
肥料価格と米価との価格比の変化に対しても、農民は先進国・途上国を問わず敏感に反応し、合理的経済行動を行っている。表3は、時系列データにより、肥料の対米価相対価格とha当り肥料投入の間の回帰結果を示したものだが、決定係数はあまり高くないにせよ、肥料の対米価相対価格のパラメーターのt値は有意であり、そうした合理性を裏付けている。(10)
農村における所得分配をより不平等にするとの見解に対して、それを否定する主張がある。緑の革命によって、むしろ労働に対する所得を土地に対する所得に対して相対的に高め、経済的不平等を縮小させたことを、菊池はフィリピン・ラグナ州の農村の分析から明らかにした。(11)速水も、近代品種の導入はむしろ小農の方が早かったことをアジアの30か村の調査の結果から明らかにし(12)、Chstina Davidと大塚も、アジア7ヶ国での1985-88年の調査結果から、同様な結論を得ている(13)。緑の革命は、集約労働によってより収量を高められるので、初期の信用制限のあった当時を除けば、むしろ、小農は早く近代的品種を導入したと考える方が当り前ではなかろうか。更に、冬期作化によって、年間の労働投入機会を増大させたのであるから、労働収入は増大したと考えられる。労働需要の拡大は、在村の土地無し労働者や、劣悪地域からの出稼ぎ者により就業機会を与えることになり、また、農村賃金の均等化にも作用するので、緑の革命は、所得の公正化にむしろ役立ったとすら云える。(14)さらに、彼らは、緑の革命は水利の悪いところへの導入は困難ではあるが、そうした地域では、米以外の農作物や非農業就業への要素配分を高めることにより、所得の地域間格差を緩和した可能性や、米の実質価格の低下が、貧困層の低所得問題の緩和にも役立っている点を指摘している。
緑の革命が、農村の異った農民階層に与えた影響は、農村の条件や個々の農家の耕地や家族構成などによって様々であろうが、大局的に見る場合、そして、中長期の視点からは、農村における社会的不公正を緑の革命が一層拡大させた可能性は少なかったと考える。
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